海洋資源開発

海洋資源の概要

海洋資源は大きく分けて、普段私たちが摂っている水産物や食塩をはじめとする海水溶存物、波力、海流、久米島で実証試験が行われている温度差等の海洋エネルギーを使って電気を作る、そして沖縄トラフに確認されている海底熱水鉱床をはじめマンガン団塊、コバルト・リッチ・クラスト(鉄マンガン団塊) と呼ばれる鉱物資源、石油、メタンハイドレート、そして居住都市用の海上および海中の空間を含む海洋由来の資源の総称のことを言います。自国の海洋資源の開発を進めることで、偏在する資源の輸入への依存を減らす事は望ましいことです。
このページでは、主に海底熱水鉱床とその開発計画について解説します。

海洋鉱物資源の分布図イメージ(JOGMEC)

わが国の鉱物輸入

私たちの見えないところで、さまざまな役割を果たしているレアメタルをはじめとした鉱物資源は、いまや世界の産業を支える重要なものとなっています。埋蔵量・産出量ともに多く、精錬が比較的簡単な鉄、アルミ、銅などの金属は「ベースメタル」と呼ばれています。一方、産出量が少なかったり、抽出がむずかしい希少な金属を「レアメタル」と呼びます。
それぞれに独自の特性を持つ鉱物資源は、産業に欠かせない素材です。たとえば自動車には、車体はもちろん内部のモーターやバッテリーなど、たくさんの鉱物資源があらゆるところに使われています。いまや鉱物資源なしでは、工業製品は成り立たないのです。

輸入に頼る鉱物資源「世界の産業を支える鉱物資源について知ろう」経済産業省 資源エネルギー庁 2018/03/22

日本はベースメタル、レアメタルのいずれも、ほぼすべてを輸入に頼っています。国内にも鉱物資源がないわけではないのですが、産出量が少なかったり、環境問題などから生産コストが見合わず、利用されていません。
鉱物資源は産出する国に偏りがあり、中南米・アフリカなど政治リスクがある国から産出される鉱物も多くあります。こうした資源国から、安定的な供給を確保できるかどうかが、大きな問題となります。

日本の鉱物資源の輸入・国別シェア

日本の鉱物資源の輸入・国別シェア
出典)財務省貿易統計、鉱物資源マテリアルフローより経済産業省作成

海洋資源開発の経緯

このような情勢の中、それまでの調査で海域に有望な資源が見つかっていました。ところが海での作業は、高い水圧と暗闇、冷たい水温に加え電波が届かず、これまで培ってきた陸上の技術が使えません。そこで政府により平成 25 年度に閣議決定された様々な文書[科学技術イノベーション総合戦略(平成 25 年 6 月 7 日閣議決定)、日本再興戦略(同 6 月 14 日閣議決定)、海洋基本計画(同 4 月 26 日閣議決定)]で海洋資源調査技術開発の意義・政策的な重要性が明記されました。
その中で、広大な海域から迅速かつ効率的に有用資源の存在を確認する探査技術、資源を経済的に生産する生産技術、開発と環境の保全を両立していくための環境影響評価・管理技術の三つの海洋資源開発において必要不可欠である技術を開発することとなりました。

海洋資源開発・利用、海洋環境保全、資源安全保障などの社会的観点から我が国が高効率の海洋資源調査技術を世界に先駆けて確立して調査を推進することが不可欠とされましたが、深海底は未知の部分が多く、民間企業等が自主的に調査技術の開発を進めるためには巨額の費用がかかりリスクも高いのです。そのため、国が主導して技術開発等を行いつつ民間企業にその技術等を移転していく形式を取ることにより、海洋資源調査産業を創出することが可能となりました。
その上で各省庁が協力し、それぞれが研究開発してきた要素技術を統合し、民間と協力して課題の解決に挑むこととなりました。

海のジパング計画「次世代海洋資源調査技術」

高効率な海洋資源調査技術を確立することで、世界をリードする海洋資源調査産業の創出を目的とした「海のジパング計画」が始まりました。
その目的は、1.海洋資源の成因に関する科学的研究、2.海洋資源調査技術の開発、3.生態調査・長期監視技術開発の3つです。
出口戦略は 〇海洋資源調査産業の創出と 〇グローバルスタンダードの確立です。それぞれについてみてみましょう。

1.海洋資源の成因に関する科学的研究
海洋資源の試料採取・分析により、未だ明らかになっていない海底下の鉱物・鉱床の成因を解明し、資源が賦存する有望海域を絞り込む。

2.海洋資源調査技術の開発
海洋資源の効率的な調査技術の開発を進め、海底下鉱物資源の情報などを現状の数倍以上効率よく取得するシステムを開発する。

3.生態調査・長期監視技術開発
海洋資源開発に伴う影響を評価する生態系変動予測手法などとともに、長期にわたり継続的に環境や生態系の様子を監視する技術を開発する。

海洋資源調査産業の創出
競争力のある海洋資源調査技術(低コスト、高効率、迅速、安全)を産学官一体で開発するとともに、本施策により得られた新たな調査技術・ノウハウを民間企業に移転し、海洋資源調査産業を創出する。

グローバルスタンダード
世界に先駆けて効率的な調査技術と環境監視技術を確立することにより、我が国の技術、手法を国際標準化するとともに、我が国の調査システムの輸出や海外での調査案件の受注を目指す。

沖縄の海底にもある熱水鉱床

沖縄トラフ
沖縄トラフは南西諸島の北西側に平行に位置する幅約120km,延長約900kmにわたる溝状の凹地(舟
状海盆:トラフ)で、およそ200万年前から現在にかけて大陸地殻が分裂して大きな裂け目が形成されつつある背弧海盆です。
北から南奄西海丘(奄美大島の西150km)、鳩間海丘(宮古島北西)、第四与那国海丘(与那国島北西)で熱水噴出孔生物群集が見つかっており、西太平洋を代表する熱水噴出フィールドです(藤倉ら, 2008)。
熱水噴出フィールドは、チムニー(煙突)が林立する大規模な熱水域で、チムニー周辺にはシンカイヒバリガイ、エンセイエゾイバラガニ、ゴエモンコシオリエビなどが生息しています。

海底から採取された鉱石試料

海底熱水鉱床
海底熱水鉱床は、海底のうち海嶺などマグマ活動のある場所に海水が染み込み、熱せられた海水によってマグマや地殻に含まれていた有用な元素が抽出され、この熱水が海底に噴出して冷却される事によって沈殿して生成する鉱床のことをいいます。そこには好熱菌など特異な環境で生息する生物も存在していて、それらを生産者とする特異な生物群集があることも知られています。

熱水噴出孔
熱水噴出孔は、地熱で熱せられた水が噴出する大地の亀裂のことです。陸上では温泉・噴気孔・間欠泉があります。ここでは海底環境、特に深海の熱水噴出孔(深海熱水噴出孔)のことを指しています。熱水噴出孔の英語表記やその構造物から、ベント(vent)やチムニー(chinmey)と呼ばれることもあります。

深海は水圧が高く、太陽の光は届かず水温も冷たいため、調査される前は何も住んでいない場所と考えられていました。ところが深海の大部分と比べて、熱水噴出孔の周辺では生物活動が活発であることがわかり、噴出する熱水中に溶解した各種化学物質に依存した複雑な生態系が成立していることもわかりました。その中には有機物合成を行う細菌や古細菌が食物連鎖の最底辺を支えている他、化学合成細菌と共生したり環境中の化学合成細菌のバイオフィルムなどを摂食するジャイアントチューブワーム・二枚貝・エビなどの大型生物もみられます。

チムニー
熱水噴出孔によってはチムニー(煙突)とよばれる円柱状の構造物を形成することがあります。超高温の熱水に溶解している鉱物が0°Cに近い海水と接触すると、接触面で化学反応が進み生成物が析出・沈殿して、このようなチムニーができます。チムニー構造で黒色の熱水を噴出するものは、黒い煙を放出する煙突のように見えるため、ブラックスモーカーと呼ばれます。(白色や青色のところもあります。)
ブラックスモーカーは通常、地殻から熱水に溶け混んだ高レベルの硫黄含有ミネラルや硫化物を含む粒子を放出していて、水は400℃以上の高温に達することもあります。地球の地殻の下から過熱された水が海底を通過する際に幅数百メートルに広がり、近辺で複数のブラックスモーカーが形成されます。冷たい海の水と接触すると、多くのミネラルが沈殿し、各噴出孔の周りに黒い煙突のような構造を形成していきます。この堆積したものは金属硫化物と呼ばれ、金属鉱物を含んだ塊状の硫化鉱床(海底熱水鉱床)になっていく可能性があります。

生命の起源!?
2017年3月、カナダのケベック州にある熱水噴出孔の沈殿物中から発見された古代微生物は地球上でおそらく最も古い生命体であろうと考えられています。というのも、44億年前に海が形成されてから間もなく、そして45億4000万年前に地球が形成されてから間もなく存在していた微生物である可能性があるからです。

世界初の大規模な熱水噴出鉱物鉱床の採掘
2017年8月〜9月、この世界初の実証試験は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によって実施されました。JOGMECは、海洋資源調査船「白嶺」を含む4隻の船団を使用して沖縄トラフとして知られている熱水活動背弧盆地内で行われました。

[参考]
内閣府
経済産業省 資源エネルギー庁
環境省 生物多様性の観点から重要度の高い海域